水木しげるのラバウル風景

レイテ風景


「 これは教会跡と称する広い空地あたりの、昼ごろの風景。
ものすごく静かで、近くにハエが来ると飛行機の轟音みたいに聞こえた。
とにかくどこでもテクテク歩くと、やたらに気持ちが良かった。
いっそ日本に帰らず、ここで住もうかなァ。
というヘンな考えを起こしたのも無理からぬ話だ。
 親しい軍医にさっそく相談する。
「十万人の兵士がいるが、現地除隊を希望する者はお前一人だぞ」と、言われるが、
一週間たってもぼくの意思が固いので、
軍医はマジメになって
「いちど日本に帰って御両親に会ってからでもいいんじゃないか」と説得しだした。
 それほど、このあたりはいいところだった。
考えてみれば、人間、何処に住んでもいいんだ。」

、、、

明るい光。南国の青空。白い雲。爽やかな空気。のびやかなヤシの木々。
すべて美しい。
歴史に残る名画だと思う。

ラバウル表紙

「水木しげるのラバウル戦記」(残念ながら絶版。文庫版なら、あるようだ)

水木しげる一等兵(本名、武良 茂)は、ラバウルで敵に急襲され、小隊は全滅。
歩哨に出ていた水木しげる一人だけが、九死に一生を得た。


何日もジャングルをさまよい歩いて、ようやく、日本軍に会うことができたのですが、
中隊長は、「なんで逃げ帰ったんだ。皆が死んだんだからお前も死ね」と、言ったそうです。

さらに戦争は続き、水木一等兵は機銃掃射で左手を失う。
マラリアにもかかっていて、死線をさまようが、かろうじて助かった。

そして、日本はポツダム宣言受諾。

、、、
 

画材は、
「ぼくはある日、”使役”という労役に一日出されたことがあった。
仕事は、なんと事務室の物運びだった。
 その時、いくつもの紙の束を運ばされた。
「この紙があったら絵が描けるのに、、、」と思って下士官に、
「自分は絵かきですが紙もらえないですか」とおそるおそる言うと、
その下士官は、たくさんの紙と一本の鉛筆をくれた。
それでこの三十枚ばかりの絵が残せたわけだが、その親切がなかったら、
軍隊で兵隊が絵などなかなか描けない。
とにかく材料はなにもないのだから、、、。」

「使ったクレヨンは二、三年前慰問袋の中にあった物で、
一センチくらいのものと五ミリ位のものが残っており、二、三枚描くとなくなってしまった。」

クレヨンなぞ軍隊にあるわけもないのですから、大事に大事に取っておいたのですね。

そして、この大切なクレヨンで、ここぞ!と思って描いたのが、この絵なのでしょう。

、、、

ポツダム宣言以前、
つまり戦争中から水木サンは土民と仲良くなり、たびたび土民部落に通うようになった。

ひそかに軍を抜け出しては、土民部落に遊びに行っていた。
それが見つかると、はげしく叱責されたそうです。(つまり「ビンタ」ですね)

多くの日本兵は、土民をいじめたり、殺したりしていたので、嫌われていた。

土民と親しくする日本兵など、めったに、いなかった。

ごちそう

これは、水木サンがある家族に、はじめてごちそうになった時の絵。
大事な芋を全部食べてしまったので、皆ビックリしている。

左下の、目の玉ひんむいてビックリしているいる人はイカリアンというお婆さんで、
家族で一番えらい人。ラバウル人は母系家族のようです。
太平洋戦争末期では、日本軍の食料は非常に欠乏していたので
水木サンは、もう、遠慮もなにも忘れて、夢中で食べてしまったのでしょう。

それ以来、この家族と、とても親しくなったそうです。

それで、毎日のように遊びに行っていたらしい。
ある日、
水木しげる畑プレゼント

「作業の休み時間を利用して、イカリアンの部落にはせつけた。
「おーい」とみんなが集まってきて、「お前の畑だ」という。
見ると三十坪ぐらいのところに、うねが作ってあり、芋が植えてある。
大好きな紫色の芋の葉だ。
こいつは小さいが、中が紫色でとてもうまい。
ぼくは、なにか巨大な富を得たような気になって、その夜はうれしくて、あまり眠れなかった。」


メリー

「このメリー()は美人だった。スタイルもいいし、しとやかだった。(中略)
彼女たちの生活は、完備した自然の冷暖房の中でまずい物を食って、
粗末なところに住み、なんの娯楽もなく(時たま踊りがあるくらい)
そんなところで、満足して生活している。
まあ、どこを探しても何もないのだから満足せざるを得ないのだが、
この満足というのがなかなか得難いものだと思う。
ま、いうなれば何もしないわけだが、ぼくはまたソレが好きなんだナ。
 この娘は、いやこの娘に限らず、土人は"満足を知る"ことを知っている、
めずらしい人間だと思って、今でも敬意をはらっている。」

、、、

水木サンが、もしも万一、ラバウルに定住していたなら
確実に、「ゴーギャン」に、なっていたことでしょう。

、、、

水木土民再会

ラバウルを再訪した水木しげる氏(一緒に写っているのは、イカリアンの三人の孫)

 



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