日の名残り (ひのなごり)
石黒一雄氏がノーベル賞を取ったというので、「日の名残り」という本を読んでみた。
kindle版というパソコンで読めるやつです。3秒で買えました。
読んでみたら。しみじみとして、とても感動したので、映画も見たくなった。
映画のネット版を「プチッ」とクリック、2秒で観る事が出来ました。
「日の名残り」は、
第二次世界大戦前夜から戦後まで、イギリスの貴族政治家「ダーリントン卿」に仕え、
そして、後に没落したその貴族の城を「執事付き」で買ったアメリカの実業家に
引き続き仕えた執事「スティーブンス」が自分の人生を振り返る。そんな、お話です。
「ダーリントン卿」という名前ではないが、モデルになった人物は実在したそうです。
このお話は(小説ですからね。もちろんフィクションなのだが)
現実にあった実話にもとづいている。
執事スティーブンスは愚直なまでに真面目に「執事」という仕事に取り組む
まことに「不器用」な人で、その不器用で篤実な人生には、心打たれます。
、、、
読んでから観るか、観てから読むか、、、
私は以前(別の小説のことなのですが)、ある小説を読んでから、
それを映画化したものを観て、非常に不満に感じた事があったので
ちょっと心配だったのだが、この映画に関しては、それは杞憂でしかなかった。
映画というものは、長い小説をわずか2時間前後に、まとめなければならないので
原作を読んでいて「ここが面白いなあ」と思った場面が
無情にも省略されたりしていて、がっかりする事も、多い。
しかし、この「日の名残り」(The Remains of the Day)
という映画については、そんな事は心配御無用。
(執事役は、名優 アンソニー・ホプキンス)
もちろん、長い小説をダイジェストするからには、ある程度の省略は必須ですが
この作品では、それを、とても上手にやってるなぁ、と、感じました。
文章で書けば、どうしても冗長になってしまう所を、うまく映像化している。
「一目瞭然」とか、「百聞一見」とか、そんな諺(ことわざ)もありますね。
この映画には、ほんの少し原作と違う所もあるけど
まあ、原作と、映画は「別物」と考えるべきでしょう。
どちらも、それぞれに感動しました。
ただ、ちょっと、驚いたのは、
新たな御主人であるアメリカの実業家が、ある日、執事スティーブンスに対して
「たまには休暇を取りなさい。私の車でドライブ旅行にでも行ってはどうだ?」
と勧めるので、御主人の言うとおり、車を借りてドライブ旅行に出るのだが、
その車が、原作では「フォード」となっているのだが、
それが映画では「ダイムラー」になっていた事です。
小説家石黒氏は御主人様が「アメリカの実業家」だからフォードにしたのかな?
まあ確かに、当時のイギリスの古臭い高級車に比べれば
フォードの車は最先端で、とっても、かっこ良かったのでしょう。
映画でダイムラーにしたのは、
フォードだと、どうしても高級感が乏しくなってしまうから、でしょうかね?
映画でクダクダシイ説明は不可能ですからね。
私も、原作を読んでいて「フォード」が出てきたので、瞬間的には、ちょっと不思議に思った。
「リンカーン」とか、もっと高級車もあるんじゃないかなぁ?、、と、疑問に思ったりもした。
(、、、「フォード=大衆車」ってのは、私(いや、誰でも)の、勝手な思い込みですね。
当時でも、フォードには、かっこいいスポーツカー等、色々あったようですな ^^;)
ま、車の件はさておき、そんなわけで、映画を先に観ても、小説を先に読んでも、OK。
映画も小説も、どちらもステキです。
小説は、amazonの口コミでは、「最高の名訳」と、みんなが褒めている。翻訳は土屋正雄氏。
英語は苦手なので私には名訳かどうかはわかりかねますが、とても、読みやすいです。
、、、
私は以前、テレビで「シャーロック・ホームズ」とか「エルキュール・ポワロ」とか観ているので
(「ダウントンアビー」はちょっとだけしか観てない、残念ながら、、、)
イギリス貴族の雰囲気については、少々知っているつもりでしたが、
それは、知ってるつもりの浅知恵、いやいや、全くの無知でした。
「執事」ってのは、ほんとに、とても大変な仕事ですね。
まずは御主人の「秘書」、日本の武家なら「爺(じい)」、商家なら「番頭」、
パーティーがあれば「レストラン支配人」、「ソムリエ」、「ボーイ長」、
そして、女中連中、馬屋番、庭師、大工、出入り業者etcに対する指揮指導、
それらを、全て、こなさなければならないのが「執事」という重責なのですね。
執事は家も持たず御主人様の家に住み込みで、24時間365日御主人様に仕える身である。
執事スティーブンスは、
知的で魅力的な女中頭に、ちょっと心を奪いかけられるが、それも押し殺す。
完璧な執事には、そのような人間的な「ゆらぎ」も「許されるものではない」
と、スティーブンスは考えるのだった。
、、、
そんな困難な仕事を、最高のプライドを持って実行しつづける執事「スティーブンス」。
、、、
それを地味に描き続けるお話、、、では、あまりにも、地味すぎますね。
もりろん、そんな平凡なストーリーではありません。
、、、
舞台は第二次世界大戦前夜から始まる。
ダーリントンホールでは、「ミニ・ヴェルサイユ会議」的な
デリケートなパーティーがしばしば開かれる。
ちょっとした偶発事が戦争を誘発するかもしれない。
スティーブンスは、執事ゆえ当然、その難しいパーティーを裏方として仕切らねばならない。
次々と起こるトラブル。
スティーブンスは、最大限の知識と頑強な精神力、そして必死の機知で乗り切ってゆく。
、、、
貴族政治家「ダーリントン卿」は、英国そして欧州の良心を代表する高潔な紳士である。
ダーリントン卿は歴史の渦に翻弄されてゆく。
執事スティーブンスは、敬愛するダーリントン卿を全身全霊で支えるのである。
このお話の主人公は、もしかしたら
執事「スティーブンス」の語る「ダーリントン卿」なのかもしれない、、、。
、、、
さて、執事スティーブンスは、その困難に、いかに立ち向かったのでしょうか、、、?
、、、
それは本編を御覧下さい。
小説からでも、映画からでも、どちらから先でもよろしい。
、、、
この映画は、とにかく美しい。
小説でも、イギリスの田舎の美しい風景を本当に美しく描写している。
、、、
この、お話は、小説でも映画でも
特に「衝撃的場面」みたいなものは皆無で、とても静かに進む、格調高い、お話です。
私は年のせいか小説を読み終わった後、
そして映画を観終わった後も、しみじみと、、、涙が、、こぼれてしまいました。
、、、
どうぞ、御覧あれ。そして、お読みあれ。
雑記目次へ
森水窯ホームページへ