赤くなったら、くべろ ?
唐津焼で修行中
はじめは、ただ、薪を運んだり、師匠に薪を手渡ししているだけであったが
そのうち、私にも薪をくべさせてくれるようになった。
そのとき
「窯の中が赤くなったらくべろ」と、師匠が言うので困ってしまった。
割木(わりき)をくべるとき、覗き穴から窯の中を覗いて
窯の中の色を見てタイミングをはかるのであるが、
もちろん、くべた直後は覗くことはできない。
猛烈な炎が覗き穴から噴き出してくるので、
くべた直後に覗き穴に目を近づけると目が燃えてしまう。
2~3分たつと、炎が治まってくるので覗くことが出来る。
2~3分後は赤いが、くべた薪が窯に熱を与えて温度が上がってくると
だんだん明るく白っぽくなってくる。そのときが薪の「くべ時」なのである。
5~6分後位かな。
だから、
師匠が「窯の中が赤くなったら、くべろ」と言われるので困っていたのだ。
薪をくべるタイミングは大変微妙で難しく、
タイミングや薪の本数を間違えると温度が上がるどころか
むしろ下げてしまう事にもなるので、やっかいなものである。
私がたびたび間違えるので、そのたびに「窯の中が赤くなったらくべろ」
と言われるので、私の頭がだんだん混乱してきて、困り果てた。
つまり
窯の中が赤い時はまだ温度が低いのである。
温度が上がると、明るく白っぽくなってくるので
そのときが、「くべ時」のはずなのである。
「赤くなったら」というのは、どうもちがう。
師匠が、くべると、ちゃんと温度が上がっていく。
私は一年ぐらいは、失礼にも
「師匠はへんなことを言う人だ」みたいに思っていた。
そのうち、
ある程度、一時間くらいは窯焚きをまかせられるようになると
色々怒られる事も、あまりなくなって、忘れていたが、
友達も沢山できたりして、九州にも慣れてきた頃
ある日、明解に解明された。
九州弁で
「あかく」っていうのは「赤く」でなく「明るく」の意味だったのだ。
つまり
「窯の中があかくなったら、くべろ」って言うのは
「窯の中が明るくなったら、くべろ」っていう意味だったのですね。
そのときは、ホントに胸のつかえが、すーっと、おりたような気がしたものだ。
(注:標準語の「赤くなったら」は、九州弁では「あこうなったら」又は「あかなったら」である)
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最近
「全国アホ・バカ分布考」という本を読んだ。
本稿にも似たテーマで「アホ」と「バカ」の分布を綿密に調査した本です。
ハチャメチャ面白いです。
実は逆で、「全国アホ・バカ分布考」を読んだので本件を思い出し、
これを書いたのです(^^;)。
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「くるまをかってきた!!??」
ついでに、もうひとつ面白い事を思い出した。
有田の学校に通っていた頃
金武(かなたけ)先生という山水画の先生が
自宅を解放して、地元の後継者に山水画の指導して下さっていたので
やる気十分だった私は、当然、毎回参加していた。
そして
時には、天気の良い日曜日などに
先生と一緒にみんなで近所の山にスケッチに行くこともあった。
スケッチに行く日、
いつもバイクで来ていたおばちゃんが
その日にかぎって乗用車に乗ってきて、
その車に、みんなを乗せて行く、と言うのだ。
私は驚いて、
「そのクルマ、どうしたんですか?」と、聞いたら
おばちゃんは、
「かってきたばい」
と、いうので、私はさらに驚いて、
「えっ!!!、今日のスケッチのために自動車を買ったんですか?」
と聞いたので、みんな大笑い。
なぜかというと
「かってきた」というのは九州弁で「借りてきた」という事なのである。
標準語で「買ってきた」というのなら、九州弁では「こうてきた」なので、
まちがえる事は、無い。
(現在形だと
標準語の「買う」は九州弁でも同じく「買う」、
標準語の「借りる」は、「かる(借る)」で、やはり、まちがえる事は無い)
私は、非常にきまりわるかったが、
しかし
大いに受けた事には、十分に満足したのであります。(^o^)
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