岩手県岩
              泉町山村僻地の調味料 「しょうゆ豆」(又は「豆しょうゆ」)
小野寺キ ンコ(農業歴70年) 談 聞き取り 分田 真
岩手県 岩泉町月出地区には、かつて「しょうゆ豆」という調味料が存在した。
(又は「豆しょうゆ」とも言うが、以下「しょうゆ豆」で統一。)
              昔は、本当の、と言い ますか、現在スーパーで普通に売っているような、
              黒い、いわゆる「醤油」というものは山奥では、そう簡単には手に入る物ではなかった。
              (一方、「味噌」の 場合は、山村僻地でも昔から自家製造していた。)
              本当のいわゆる「醤油」というものは、盆、正月、或いは、お客様が来た時などに、
              ほんの少々、大切に使う ような、とても貴重な品であった。
 
              山村僻地の村人は、普段は味噌の上にたまる液体を「たまりしょうゆ」として使うか、
              又は、ここに述べる「しょうゆ豆」を使用していた。
注: こ の「しょうゆ豆」とは、「豆を醤油に漬けたような物」とは、根本的に異なる物です。
              いわば、貧しい山村における醤油の「代替品」です。
              しかし、本当のいわ ゆる「醤油」には無い、素朴な、自然な、豆の香りが残る、
              とても「味わい」がある物なのです。
              この技術を、たやすこと無く後世に伝承したいものです。
材料: 大豆4升。塩8合 くらい。小麦3合くら い。水。
 
              これだけである。(麹等は使わない。)
道具: 萱(かや)の「むしろ」、木綿のさらし、適当な大きさの甕(かめ)、適当なビン。
作り方
1  大豆4升を柔らかくなるまで茹でる。湯を捨て
              る。さまして、広げて乾かす。
2 大豆に一割弱の「焼き小麦」を混ぜる。
              焼き小麦とは、小麦粉ではなく、小麦を脱穀した本当の麦であって、そ
              れを鍋で、ちょっと軽く空煎りした物である。 
              この小麦は、まあ無くても良いのであるが、風味という
              点では絶対に不可欠な物だそうだ。
              (後日追記:小麦は「発酵」にも、多かれ少なかれは関与しているのかもしれない、、、?)
            
              焼き小麦の半分は軽く粉砕し、半分はそのまま混ぜる。
3   この大豆と焼き小麦を混合した原料を、萱の
              「むしろ」の上に木綿の「さらし」を敷いて、
              その上にのせ、「さらし」と「むしろ」でくるむ。
              (「むしろ」は 「萱(かや)」に限るそうです。通気性が良いからかも知れません。)
              その上に布団等をかぶせて保温する。
              発酵菌や麹など入れなくても、何日か置くと自然に 発酵する。
                5日くらいたったら、手で触ってみて下さい。暖か
              くなっていれば発酵が進んでいる証拠である。
              くるんだ「むしろ」や「さらし」を開いてはいけない。
4  うまく発酵し始めると白い「カビ」のようなものが生え、
              そのカビのような物は、ほど良く黒ずんでいるはずである。
              「程よい黒さ」になったなら(6日目くらい)出来上が
              りである。
              この、「程よい黒さ」というのが、なかなか難しい。
              真っ黒になってしまえば大失敗である。失敗のほとんど
              は、ここで大豆を黒 く腐らせてしまう事にある。
              (納豆のようにねばってしまったり、あるいは、酸っぱくなってしまったりする)
              実は、「しょうゆ豆」を作る事は、非常に難しい 技術なのです。
5 大豆が、ほどよい黒さに発酵したなら包みから取り出し、お 日様にさらしてカラカラに乾燥させる。
              乾燥させる事によって、保存することが出来るようになり、「しょ
              うゆ豆」の「保存材料」となる。
「保存材 料」が出来さえすれば、ひと安心.。
              この「保存材料」を適量取って、しょうゆ豆を作るのだが、ここで、ひと手間必要。
                
              
6 その「ひと手間」とは、漬ける前に、この原材料を水で軽く洗う。
それは、発酵が進みすぎないようにする為である。
              洗うのを怠ると、発酵が進みすぎ酸っぱくなったりして、大失敗となるので洗う事は必須である。
7  甕などに(甕の大きさにもよるが例えば)豆2kg.に、
              塩水
              (お湯2升に塩400gを
              よく溶かして、それを冷ましたもの)を加える。
              塩は雑菌を殺すけれども、麹(こうじ)菌を殺すことはできない。
              だから、昔は保存の為に大量に入れたものである。
              昨今では、減塩の時代ですから少なめが良いかも。ただ
              し、塩が少なすぎると腐ってしまうから難しい。
    
8 そして、ぬかみそのように毎日、かき混ぜる事が必要である。こ れは「空気」を入れる為でしょう。
              毎日根気よくかきまぜて、1~2週間位すると
              運が良ければ、これまでの努力が実って待望の「しょうゆ豆」が出来あがります。
              作る季節は、春のお彼岸の頃が良い。
              (これは岩手県岩泉町月出地区の場合。
               気温が零下になるかならないか、ちょうどその頃であろうと思われる。)
9 出来あがったら、てきとうな空き瓶に瓶詰めにします。ここまでくればもう安心。
              時間が経つごとに、どんどん美味しくなる。ここからでも、室温では発酵が進みます。
            
発酵が進
              みすぎると心配になったなら冷蔵庫に保存しても良い。
            
 
              
食べてみ れば、本物のいわゆる「醤油」とは違う。
              素朴で、豆と小麦の風味がとってもいい感じ。
              (山奥の発酵食品というと、なにか非常に癖のある物を想
              像するかもしれませんが、
さにあら
              ず。とてもマイルドです。)
とっても ウマーイ。何に付けてもおいしいです。
              刺身にも、おひたしにも、サラダにも、ハンバーグにも、ステーキにも、
              焼肉にも、ギョーザにも、、、何にでも合います。
豆の形が そのまま残っていますが、これで良いのです。
              この豆を、御飯の上に乗せて食べれば、美味しくて、他
              のおかずは要らないかも、、、。
              昔だったら「へーめし(稗飯)」かな?あるいは、
              他のおかずに混ぜながら食べても良い。
ほかの地 方でも、似たような物があるでしょうか?
御存知の 方は、是非、お知らせください。
平成28年 5月
                分田 真  記